novel

来世も見つけて、憑いてきて。

  暗い。 とてつもなく暗く――暗くて、暗くて、暗い。 果たして本当に此の場所は、現し世に存在している空間なのかと神に問うてしまいたくなる程に、此処は暗くて冷たい。固い座敷をがりがりと指の|爪先《つまさき》で撫でたら人間の汚い欲望…

王座に座して、手を引いて。

 人を殺すことに抵抗はあるか。仮に誰かからそう問われたとしたら――私はきっと不思議そうに首を傾げてしまうだろう。逆にどうして抵抗があるのか、と。なぜならこいつらは国を脅かす、殺されて仕方がないやつらなのだから。「――あらいけない。ドレスが汚…

君の代わりは何処にも居ない

 獣人と人間とが共に歩んできた年月はもうかれこれ数十世紀にもなる。 小学校の歴史の授業では、人間の祖先は「猿人」、獣人の祖先は「犬」という生き物だったのだと世間一般では教えられているらしいが、生憎と俺は小学校というものに通ったことがない。 …

兄弟ができるなんて聞いてないっ!

 中二の夏、母が亡くなった。 病弱ではあったが人一倍芯が強く、心優しく、真っ白くふわふわの毛並みが美しい、自慢の母だった。 彼女と共にどこかへ出掛けた思い出はあまりないけれど、絵本の中への冒険だったら数え切れないほどにしたし、彼女が作ってく…

君に地獄は似合わない

 幽霊や妖怪といった類の存在を信じている人はこの世の中に一体どれぐらい居るだろう。 少なくとも俺はこれっぽっちも信じていない。 そもそもこの世には科学で解明できないものは存在していないはずだし……なにより、そんなものが存在するのなら、きっと…

今日はどっちが下になる?

 「今日はぜってえ譲らねえぞ」ぎし、とスプリングが軋む。 あまり広いとは言えないセミダブルのベッドの上で、向かい合う二人。 締め切ったカーテンの向こう側からカラスの鳴き声が聞こえる。 随分夜も更けてきた。 今日はさっさと決着をつけ…

部長の下で乱れたい!

 獣人と人間とが共に歩んできた年月はもうかれこれ数十世紀にもなる。  小学生の頃、歴史の授業で人間の祖先は"猿人"、獣人の祖先は"犬"という生き物だったのだと習ったのをぼんやりと覚えていた。 人間に地域や見た目、肌の色などによってある程度の…

部長に顔を埋めたい!

 獣人と人間とが共に歩んできた年月はもうかれこれ数十世紀にもなる。 獣人。 文字通り、獣の形をした人。 "猿人"を祖先とする人間に対し、獣人は大昔に存在していた"犬"という生き物が祖先になるのだそう。 人間に地域や見た目、肌の色などによって…

白銀世界に花束を

 天からこぼれ落ちてきた真っ白い光が、手のひらの上でしゅわりと溶ける。 ひんやりとした冬の匂いに俺は思わず体を縮こませた。 俺の名前は、秋鳴累。 〝RUI〟という名義でモデル活動をしている一八歳、男。 突然だが俺には今年二十三歳になった義理…

いっぱい食べるキミが好き!

 「いやあああああああああああ!」 家中を震わせた悲鳴に、夕食をどうしようか悩んでいた俺の肩は大きく跳ねた。 一体なにが起こったのかはわからないけれど、最悪の事態に備えて右手に包丁、左手にゴキジェットを装備して悲鳴が聞こえた洗面所…

いい夫婦の日

「いい夫婦の日なんだって」 夕飯を作っていたら空が唐突にそう零した。 キッチンカウンターごしに、ダイニングチェアに座ってテーブルに頬杖をついていた彼と目が合う。「へえ。今日?」 そう尋ねながら手元に視線を戻し、キャベツの千切りを再開する。「…

甘く溶かして

 「伊墨さん、伊墨さん」 ある日の休日。 朝食の片付けを終えてキッチンを出ると、なにやらまことが悪戯っぽく笑いながら駆け寄ってきた。またこの子は一体何を言い出すのやらと思いながら彼に視線をやると、小さなその手には可愛らしいデザイン…