君に地獄は似合わない - 1/2

 幽霊や妖怪といった類の存在を信じている人はこの世の中に一体どれぐらい居るだろう。
 少なくとも俺はこれっぽっちも信じていない。
 そもそもこの世には科学で解明できないものは存在していないはずだし……なにより、そんなものが存在するのなら、きっと俺のもとに両親が会いに来てくれるはずだから。

「いってきます」

 静まり返った玄関。
 この家の住人はあと二人、どちらもリビングにいるはずなのだけど、大荷物を持ってこの家を出ていこうとする俺に振り返りもしない。
 一人暮らしをしないといけないほど遠い大学に入学させたのもどうせ体の良い厄介払いをしたかっただけなんだろう。
 まさか厄介払いのためだけに大学費用を一括でぽんと出してくれるなんて思わなかったけど……まあ、こちらとしても世間話すら行き交うことのないあの冷たい家を飛び出せるのなら願ったり叶ったりだ。

「んーっ」

 家の敷地を出た瞬間、ずっと喉のあたりで詰まっていた息が楽になった。
 大きく伸びをして門出にもってこいの真っ青な空を見上げる。
 やっと大人の手を借りなくても生きていける年齢になれた。
 これから俺は大人の仲間入り……とまではいかなくても、自分で自分に責任を持つことができるのだ。

「やべ、早く行こ」

 がらがらと、大きなキャリーケースを引きながら駅までの道のりを急ぐ。
 ちなみに言っておくと俺を見送りもしてくれなかったあの二人は両親ではない。
 殆ど接したこともなかった遠い親戚だ。
 実の両親は……放火によって家が全焼し、それに巻き込まれて亡くなった。
 俺のせいで。
 男としてこの世に生を受けておきながら小さな体、細い手足、大きな目、小さな顔……まあ端的に言ってしまえば、俺は可愛い。
 自分で言うのもなんだけど。
 可愛い系男子みたいな感じじゃなくって、本当に女の子に間違われることが多いぐらい。
 そんな見た目だったもんだから俺は小学生の頃、厄介な変態に目をつけられ……家に火を放たれた。
 両親は逃げ遅れて寝室で焼死。
 夜中、トイレに起きていた俺だけが助かった。
 当時小学生だった俺に両親を助けることなんてできるはずもなく、ただ燃え落ちていく家を見ていることしかできなかったのを覚えている。
 だから俺は……幽霊なんてものを信じていないのだ。
 だってきっとこの世に幽霊なんてものが存在したのなら、両親が枕元に現れてこう言うだろうから。
 ”お前のせいだ”と。
 幼い頃は他人のような人たちの家を転々としながら両親が枕元に現れ恨み言を聞かされるのに怯えたりしていたものだけど、晴れてこの春から大学生になった現在までそんなことは一度も起こっていない。
 少なくとも今後、死んだ両親が会いに来たりしない限りは幽霊や妖怪といった類のものを信じることはないだろう。
 今一度、自信を持って宣言できる。
 この世に幽霊なんてものは存在しない。
 ……はずだ。