【とらお。】は定期的に
ファン小説(ファンフィクション)執筆を
無料で行う企画を開催しております。
どなたでもご参加頂けますので
お気軽にどうぞ。
次回開催予定
◆第二回 ファン小説執筆企画
募集期間:2024/07/20~2024/08/10(※予定)
※募集受付期間外の応募は無効となりますのでご注意ください。
※期間限定のサービス企画のため予約等も受け付けておりません。ご了承ください。
企画概要
Youtube脚本・PBWライター・小説執筆業務など
ライター実績のある【とらお。】が
応募者様の中から【抽選3名】限定で
ファン小説(ファンフィクション)を執筆致します。
執筆文字数:1000文字程度
【対応可能ジャンル】
3L(BL・GL・HL)全てOK
一次創作・版権作品問いません。
※当サイトにて掲載するため成人向けの内容は対応不可。
【応募方法】
各種SNSの投稿へリプライ
もしくはお問い合わせフォームより
ご応募くださいませ。
上記他、質問事項等あればメールフォームよりご連絡ください。
過去の開催記録
第一回(募集期間2024/04/30~05/06迄 ※募集受付終了)
当選者様: 砂江すなえ様 / 新棚のい様 / 蒼井 刹那様
※ウインドウが小さいと文章が表示されない場合があります。
朱の余韻 (砂江すなえ様)
その人に遭遇したのがいつだったかは、はっき
り覚えていない。最近だったか、数週間前だった
か、数ヶ月前だったか。
ただ、太陽がうっかり生き物でも食ってしまっ
たのかと思えるほど真っ赤な夕陽を浴びながら、
公園の砂場で一人黙々とトンネルを作り続けてい
た姿だけが瞼の裏に焼き付いていた。
「……なんでしょう?」
瞬きをした瞬間だった。
動作には多少の個人差はあるものの、数秒もな
いほどの間だったはずだ。
しかしそんな一瞬とも言える少ない時間のうち
に、数メートル離れた砂場に居たはずのその人は、
視界の直ぐ目の前まで迫り、不思議そうにこてん
と首を傾げた。
さらり、と。
その人の中で唯一柔らかそうな黒髪が夕日を浴
びて橙色に染まった肌の上を滑る。逆光のせいか
前髪の奥に存在しているはずの瞳は見えなかった。
「なにか、気になることでも?」
その人は言葉を失っているこちらを見やりなが
ら、今度は逆側に首を傾げる。なんとなく、油を
注す前のブリキ人形のように動くのではないかな
んて思っていたせいか、人間らしく滑らかに動く
その様子が却って不気味に感じた。
「誰……?」
今にして思えば他に適切な質問はいくらでもあ
っただろう。
一体何をしているのか、とか。
何のためにトンネルを掘っているのか、とか。
だけど当時の自分にとってはその人が一体何な
のか、それだけが気になって仕方なかったのだ。
問われたその人はというと、赤い紐で縫い上げ
られた口角を器用に持ち上げてぺこりと仰々しく
お辞儀をする。
「砂江すなえです。文章を書いたり、歌ったり。
色々しています」
言うが早いかその人――砂江すなえさん、は唐
突に旋律を口ずさんだ。
その調べはあまり馴染みのないものだったけれ
ど、どこか重たく、目を離した隙に空気へ紛れて
消えてしまいそうなほど透き通った不安定さは、
なるほど確かに今のロケーションと噛み合ってい
る気がする。
低いとも高いとも取れる絶妙な歌声は、案外す
んなりと内側へ染み込んできた。
「そろそろ日没ですね。……それじゃ、失礼しま
す」
またしても瞬きをした瞬間。
そんな声がして、弾かれるようにして顔を上げ
るとその人の姿はもうなかった。つい少し前まで
聞こえていた歌声だけが鼓膜に余韻を残している。
狐につままれたような心持ちで帰路を辿りなが
らふと、気がついた。
結局、あの人が何なのかは、わからず仕舞いで
あることに。
その謎は――未だに、解けていないままだ。
神の名は (新棚のい様)
「神様は、なんの神様なんですか?」
すっかり空になったビアグラス越しにそう問い
かけると、向かい側に座っていた神様は食事の手
を一旦止め、ついとこちらを見やった。切れ長の
瞳を細めながら不思議そうに首を傾げるその様子
はどちらかというと人間よりも動物に近い。
「なんの、とは何だ。神様は神様だぞ」
「いえ、そうじゃなくて。ほら、あるでしょう。
弁天様とか天狗様とか、水を司る神様とかそう
いう……種類? みたいな。よく知らないです
けど」
望まない相手との婚姻が嫌で神様の生贄にな
ろうだなんて割と本気で思っていた人間のくせ
になんだが、私はあまりそういう、オカルトだ
ったり神道だったりといったスピリチュアルな
ものには明るくない。というかぶっちゃけ興味
もそこまでない。
自分がまだ都会に憧れる村人だった頃、そう
いえば両親が神様がどうだ村の掟がどうだとご
ちゃごちゃ言っていたような気もするけれど、
都会で暮らすうちにそんな記憶など失くなって
しまったし、今後自分の脳内メモリに保存する
こともないだろうと思っていた。
だけど、これからのことを考えるなら……も
し本当に神様の申し出の通り、共に都会へ行く
のなら、多少神様のことを知っておいて損では
ないだろう。
なんてぼんやり考えながら二の句を待ってい
たら、神様はくいと楽しそうに口角を上げて、
テーブルの上に頬杖をついた。
「当ててみろ」
「めんどくさいです。っていうか、わからない
から聞いてるんですけど」
「お前、本当に肝が据わってるな」
「ありがとうございます」
「褒めてないぞ」
くつくつと喉の奥で笑う神様の顔を眺めながら
随分饒舌な自分にひっそりと驚く。酔いのせいか、
はたまた、神様が逃げ道を作ってくれたおかげか。
村に連れ戻される時はあんなに体が重たくてこ
の世の終わりのような気がしたのに、今はなんだか
口どころか体も随分軽い。
ビールを乗せて席まで近付いてきてくれた配膳
ロボットへ、ついお礼を言ってしまいそうになる
ぐらいには。
「――いずれわかる。だから当ててみろ」
新しくやってきたジョッキを一気に煽ったとこ
ろで、どこか楽しそうな神様と目が合った。にん
まりと笑った神様はふいと窓の外に視線を投げか
ける。それはつい少し前に越えてきた、大きな川
がある方角。
「あの村は狭い。村そのものも、視野も、居心地
も、何もかもな。……ここを抜け出せば、きっと
色々なものが見えてくるだろうよ」
釣られて、外を見る。
随分久方ぶりに純粋な気持ちで見上げた空は、
いやに透き通って見えた。
朱の余韻 (砂江すなえ様)
その人に遭遇したのがいつだったかは、はっきり覚えていない。最近だったか、数週間前だったか、数ヶ月前だったか。
ただ、太陽がうっかり生き物でも食ってしまったのかと思えるほど真っ赤な夕陽を浴びながら、公園の砂場で一人黙々とトンネルを作り続けていた姿だけが瞼の裏に焼き付いていた。
「……なんでしょう?」
瞬きをした瞬間だった。
動作には多少の個人差はあるものの、数秒もないほどの間だったはずだ。
しかしそんな一瞬とも言える少ない時間のうちに、数メートル離れた砂場に居たはずのその人は、視界の直ぐ目の前まで迫り、不思議そうにこてんと首を傾げた。
さらり、と。
その人の中で唯一柔らかそうな黒髪が夕日を浴びて橙色に染まった肌の上を滑る。逆光のせいか前髪の奥に存在しているはずの瞳は見えなかった。
「なにか、気になることでも?」
その人は言葉を失っているこちらを見やりながら、今度は逆側に首を傾げる。なんとなく、油を注す前のブリキ人形のように動くのではないかなんて思っていたせいか、人間らしく滑らかに動くその様子が却って不気味に感じた。
「誰……?」
今にして思えば他に適切な質問はいくらでもあっただろう。
一体何をしているのか、とか。
何のためにトンネルを掘っているのか、とか。
だけど当時の自分にとってはその人が一体何なのか、それだけが気になって仕方なかったのだ。
問われたその人はというと、赤い紐で縫い上げられた口角を器用に持ち上げてぺこりと仰々しくお辞儀をする。
「砂江すなえです。文章を書いたり、歌ったり。色々しています」
言うが早いかその人――砂江すなえさん、は唐突に旋律を口ずさんだ。
その調べはあまり馴染みのないものだったけれど、どこか重たく、目を離した隙に空気へ紛れて消えてしまいそうなほど透き通った不安定さは、なるほど確かに今のロケーションと噛み合っている気がする。
低いとも高いとも取れる絶妙な歌声は、案外すんなりと内側へ染み込んできた。
「そろそろ日没ですね。……それじゃ、失礼します」
またしても瞬きをした瞬間。
そんな声がして、弾かれるようにして顔を上げるとその人の姿はもうなかった。つい少し前まで聞こえていた歌声だけが鼓膜に余韻を残している。
狐につままれたような心持ちで帰路を辿りながらふと、気がついた。
結局、あの人が何なのかは、わからず仕舞いであることに。
その謎は――未だに、解けていないままだ。
神の名は (新棚のい様)
「神様は、なんの神様なんですか?」
すっかり空になったビアグラス越しにそう問いかけると、向かい側に座っていた神様は食事の手を一旦止め、ついとこちらを見やった。切れ長の瞳を細めながら不思議そうに首を傾げるその様子はどちらかというと人間よりも動物に近い。
「なんの、とは何だ。神様は神様だぞ」
「いえ、そうじゃなくて。ほら、あるでしょう。弁天様とか天狗様とか、水を司る神様とかそういう……種類? みたいな。よく知らないですけど」
望まない相手との婚姻が嫌で神様の生贄になろうだなんて割と本気で思っていた人間のくせになんだが、私はあまりそういう、オカルトだったり神道だったりといったスピリチュアルなものには明るくない。というかぶっちゃけ興味もそこまでない。
自分がまだ都会に憧れる村人だった頃、そういえば両親が神様がどうだ村の掟がどうだとごちゃごちゃ言っていたような気もするけれど、都会で暮らすうちにそんな記憶など失くなってしまったし、今後自分の脳内メモリに保存することもないだろうと思っていた。
だけど、これからのことを考えるなら……もし本当に彼の申し出の通り、共に都会へ行くのなら、多少神様のことを知っておいて損ではないだろう。
なんてぼんやり考えながら二の句を待っていたら、神様はくいと楽しそうに口角を上げて、テーブルの上に頬杖をついた。
「当ててみろ」
「めんどくさいです。っていうか、わからないから聞いてるんですけど」
「お前、本当に肝が据わってるな」
「ありがとうございます」
「褒めてないぞ」
くつくつと喉の奥で笑う神様の顔を眺めながら随分饒舌な自分にひっそりと驚く。酔いのせいか、はたまた、神様が逃げ道を作ってくれたおかげか。村に連れ戻される時はあんなに体が重たくてこの世の終わりのような気がしたのに、今はなんだか口どころか体も随分軽い。
ビールを乗せて席まで近付いてきてくれた配膳ロボットへ、ついお礼を言ってしまいそうになるぐらいには。
「――いずれわかる。だから当ててみろ」
新しくやってきたジョッキを一気に煽ったところで、どこか楽しそうな神様と目が合った。にんまりと笑った神様はふいと窓の外に視線を投げかける。それはつい少し前に越えてきた、大きな川がある方角。
「この村は狭い。村そのものも、視野も、居心地も、何もかもな。……ここを抜け出せば、きっと色々なものが見えてくるだろうよ」
釣られて、外を見る。
随分久方ぶりに純粋な気持ちで見上げた空は、いやに透き通って見えた。